2018年12月11日火曜日

七句会 第二十六回目のネット句会 自句自解です。

 七句会のみなさま                          
                                   
 第二十六回の選句結果を踏まえて、感想や自句自解、等をおよせいただき、
たいへんありがとうございました。                   
 およせいただいたものを、名前順に、ほぼそのまままとめてお届けすること
にします。今後のやり方に、ご意見、等ありましたら、よろしくお願いします。  
                                
 七句会のweb  http://nanaku-haiku.blogspot.jp/ にも掲載してあります。
  今後とも、よろしくお願いいたします。                
  深瀬 (事務方)                            


1.秋元さんの自句自解
・生け垣の赤き南天鳥が喰い
  以前住んでいた一軒家では、路地沿いに生け垣のように生い茂った南天が、
秋になると頂上に赤い実を付けます。これを目当てに鳥たちがやって来ました。
・軒先きの実生の葡萄色づきぬ
  葡萄を食べてポイと種を吐き出して、何年か経った後、芽を出して蔓のよう
に伸びた木から毎春新芽を出して、実を付けて秋になるとブドウ色に熟して来
ます。美味しそうな実を摘まんで口に運ぶと確かにブドウです。これも殆どは
鳥の餌になっていました。
・暑さ去り鍋が恋しき夕景色
  あの暑い夏季がようやく過ぎ、しかし、まだ初秋には程遠い陽気のなかで、
夕方になると気分だけは秋を感じたかった。
・里山の枯れ木にたわわ次郎柿
  里山に良くある風景ですが、大井町線から見える大岡山の東工大のキャンパ
ス側にいつも秋になるとたわわに柿がついた木が見えました。次郎柿だったか
な?
・佐渡の海山路に映える柿一つ (2 点句)
  もう50年も前のことです。11月の佐渡にバックパッカー然の格好で旅し
た時、夕日が落ち相川へもうすぐという山道で月明かりにきらきらと輝くどこ
までも続いていそうな今迄見たことのないような暗く深い佐渡の海が遠くに眺
められました。ふと目をやると柿の木に一つ熟れた実が残っている、そんな景
色を山道で見たのです。
 その後、その山道を歩いて来る女性に出会いました。まだ、相川の宿を決め
ていなかったので、相川に宿はあるかと尋ねると大丈夫ですよと答えてくれま
した。相川に着くと宿から迎えに来ていて、その晩は本当に美味しい佐渡米の
ご飯と温かい布団に包まり一夜を過ごした記憶が残っています。山路で行き違
いに出遭った女性は宿のひとで、隣町から連絡しくれていたのです。

2.小野寺さんの自句自解
・古戦場 熱き血潮か曼珠沙華
  奥州衣川古戦場は頼朝の命を受けた本来守るべきはずの藤原氏の討伐により
源義経が最後を遂げた戦いの地です。
 古戦場に咲く紅い彼岸花は 頼みの弁慶達が討たれた後妻子を手にかけて自
害せざるを得なかった義経の、さながら熱い血潮の怨念の様でもありました。
 奥州一関は私の祖父の出生の地で子供の頃に最後のくだりをよく聞かされ実
際尋ねもしました。
・暁に古都の甍を 紅葉舞ひ
  静寂の中に眠る秋の早暁 京の町屋の黒い瓦屋根に朝の光りを浴びた紅葉が
ひらひらと舞い散る様は一幅の絵巻物のようでもありました。
・落ち鮎を焼いて故郷を語りけり
  簗(やな)で捕った落ち鮎は卵をもった子持ち鮎で同郷の友人と落ち鮎をた
べると三陸の子供の頃に食べた香ばしいあの落ち鮎の独特の香りに想いが飛び
ます。
・栗の飯 夕餉の匂い 妻の声
  秋の気配漂う夕暮れに好物の栗ご飯ができたと階下で妻の声がして 温かな
夕餉の匂いは平穏無事に過ぎた日の日常に対する感謝の思いです。
・杣道(そまみち)に野仏の居り秋時雨
  獣みちの様な険しく細い笹の葉で覆われた山路で秋時雨に濡れそぼちながら
野仏は佇んで居たのです。この世の不思議な出逢いのようでもありました。
・亡き朋はウ”イオロン弾くや画の中に
  故人の学生時代の絵画展で友人が心血を注いだバイオリン弾きの油彩画を観
ましたが友人はバイオリンを弾くその人であり、永遠の生命(いのち)を生き
ているのだと感銘を受けたのです。ウ”イオロンとしたのは深瀬さんのご指摘
のようにベルレーヌの「秋の日のウ”イオロンのため息のひたぶるに身に染み
てうら悲し~」からの引用で語数を短くする意図もあります。季語は入れられ
ませんでしたが。亡き朋への深い惜別の想いがあります。
・戦場のすすきの海に月のぼり
  古戦場に秋の陽が落ち 辺り一面すすきの群生が銀色の穂をなびかせており
さながら海の波のように蕭然とした情景のなかに 遠く白い月があがり人の世
のあわれを感じる以上に 凄まじい光景でした。
・曇天を雁飛び立ちぬ北の海
  荒涼とした北の海の曇天をついて一斉に雁の群れが飛翔してゆくさまは遥か
な波頭を超えて長く遠い旅に立つ雁たちの健気で不思議な決意を感じたのです。
・征きてなほ 祖国護るや 彼岸花
  国を守るために出征し異国の地に散っていった幾百万の英霊達は深紅の彼岸
花となりこの祖国を護っているのだと思うとあだやおろそかに人生を生きられ
ないという想いになります。
・秋蝶の破れし翅に陽は翳り
  長い夏を生き抜いてきた瑠璃色のルリタテハの翅は先が破れており秋の釣瓶
落ちの斜陽が落ちて 翳りが翅に微かにかかっておりました。生命あるものの
 移ろいの色なのだと感じたのです。
・百舌鳥啼きて銀漢の闇鎮まれり
  秋も深まった冬まじかの月のない夜道銀河を仰ぎ視ると 鋭く 百舌鳥が啼
き 深い闇の底に確かな 自然の運行を感じたのでした。

3.豊さんの自句自解
・秋の日や古仏微笑む万葉路  
 いかにも俳句という感じだったので、どうかと思いましたが、皆さんにはわ
かりやすかったようです。
・朽ち果てて落葉降りつむ墓標かな 
 朽ち果てた墓標と落葉。人間も自然も無常、いつかは滅びてゆく、その哀れ
さを詠んでみました。
・新蕎麦を江戸より続く老舗にて 
 老舗の蕎麦屋には伝統の味があります。せっかく新蕎麦を味わうのなら、老
舗のほうがいい。これから食べに行くでも、食べた後でも、どちらに解釈して
いただいてもかまいません。
・老夫婦手を取り合いて菊日和 
 長年連れ添ってきた夫婦の仲睦まじい秋の一日の様子を詠みました。「菊日
和」を「菊花展」にしたほうがよかったと思います。

4.深瀬の自句自解
・輝ける柿の実あおぐ老夫婦
  人生の終盤で、充実感をもって来た道を振り返ることのできる夫婦は理想的
だと思って詠みました。
・柿の実に五重塔を透かし見る (3 点句)
  子規の "柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺" は、近代俳句の代表のように言われ
ますが、それほど情景が鮮やかに浮かぶという感じもしません。少し張り合っ
てみました。
・廃屋の庭の柿の実夕陽受け
  廃屋の庭になっている柿の実の心境に思いを寄せてみました。
・妻亡くし鍋が得意と友の言ふ
  毎年、熱海に一泊し飲み会をする友人らがいて、その内二人が奥さんに先立
たれています。夕食の話しになり、一人は外食ばかりですが、自炊をしている
一人は、鍋料理が多いとのでした。
・鍋で煮るおでん待つ間のひとりごと
  おでんは手軽に作れ、おいしく食べられるので、独り身の人には便利ではな
いかと思います。奥さんを亡くした友人が、ひとりで夕食をとりながら、テレ
ビによく独り言を言っていると言っていたのを思い出しました。
・公園の屋台のおでん味深め
  子供のころ、公園におでんの屋台をひいたおじさんが来て、いいにおいをさ
せていました。当時は、おでんを買う勇気はありませんでしたが、いまもコン
ビニでおでんを買う勇気はありません。
・終活の本棚前に秋の暮れ (2 点句)
  本棚は、一応、分野別には整理してあるのですか、積ん読的な本も多いので
、整理しなくてはと思うのですが、なかなか手がつきません。
・終活の手順を思案秋の朝
  最近、終活の大切さがかなり気になるようになりました。その段取りは、よ
く考えて取り組まないとうまくいかないと思い、自分に言い聞かせる意味で詠
みました。
・終活のネット解約秋の夜
  金利のよさもあり、ネット銀行の口座を5 つほど持っていたのですが、今後
のことを考えて、1 つを残し解約しました。
・タワマンの窓辺過ぎ行く秋の風
 タワマンの窓からの景色を勝手に想像してみました。
・地下街を行き交う人に秋深む
  仕事で朝、日本橋三越の地下1 階の銀座線口のベンチによく座ることがあり
ます。通勤の人たちがたくさん行き交う様を見ていての感じです。
・秋の雲空にあざやか筆づかい
  秋の雲は、うろこ雲をはじめ、びっくりするような模様を壮大に描き出しま
す。それを筆づかいとしてみたのですが。
・秋の声しずかに睨む仁王像
  以前、 "弥勒像思惟の指先秋の声" という句を詠んだのですが、雷門の仁王
像の前を仕事でよく通るので、少し応用してみました。
・秋の声どこに向かうか身改む
  終活の一環として、残りの人生をどう生きるか、改めて向き合う覚悟を詠ん
だつもりですが。
・交差点人込み縫うや秋の風
  以前、 "街頭のひとごみ縫って舞う落ち葉" という句を詠んだのですが、そ
のバリエーションのつもりです。
・みつめれば遠い想い出青蜜柑 (2 点句)
  青蜜柑は、かつて旅行で電車に乗る前に買い込む定番のような感じでした。
・仏壇の朱盆にふたつ青蜜柑 (3 点句)
  仏壇と黒、朱盆の赤、青蜜柑の緑を組合せてみました。歌舞伎の緞帳もこの
三色なのに後で気がつきました。
・腹回りうきわ付きねと妻の言ふ
  家内はときどき大胆なユーモアを口にします。これも言われてなるほどと納
得しました。
・人形に変身ツールつけまかな
  つけまつげを芸能人とか水商売の女性がつけるのは分かりますが、電車のな
かで普通の女性がしているのを最近、よくみかけます。なにか人形なのか生身
の人間の感覚を放棄しているようでやや不気味です。世の中が機能化している
ということでしょうか。
・スマホ持ち人それぞれの電車内
 混雑した電車のなかで、それぞれが勝手にスマホを操作している様子は、な
にか現代社会を象徴しているようです。