七句会第四回自由連句作成プロセス
01 鎮魂の読経に和すや蝉時雨 (小野寺 20.08.25)
災害で亡くなった故人を追悼する盆供養の読経の声が朗々と響く中、寺の外
では蝉時雨がさながら読経に唱和する様に聞こえて、鎮魂への祈りの深さが動
と静に相成り 尚一層深まる想いがしました。
02 旅人送る十六夜(いざよい)の月 (吉良 20.10.13)
鎮魂の発句から旅人を連想:旅立つ旅人の背中を照らす十六夜の月が、旅に
出る旅人と旅人を見送る人の葛藤を表しています。
03 茶をそそぎ車窓のすすき消え去りて (深瀬 20.10.14)
旅人はローカル列車に乗り、お茶を蓋の容器に注いでいます。車窓にすすき
の群れが現れましたが、すっと消えていきました。
04 稲刈り終えたさびしき案山子 (志方 20.10.14)
秋の風物詩、すすきの後に、稲刈りをつなげてみました。
05 月の夜お化け屋敷はにぎやかに (豊 20.10.15)
案山子→人形→お化けと連想して、夏の季節感と月を結びつけました。
06 もののけ棲むや青葉づく鳴く (小野寺 20.10.17)
お化け屋敷より物の怪を連想。深い薄暗い初夏の木立で鳴くふくろうの青葉
づくの声の響きとしました。
07 六本木学術会議智慧問われ (深瀬 20.10.18)
フクロウは、ローマ神話の智恵の女神ミネルヴァを象徴するものとして知ら
れています。昨今の新たな会員任命問題に揺れる六本木にある学術会議に転換
してみました。
08 揺れて恋道秋空高く (新井 20.10.18)
学術会議で世間が揺れていて、恋心というものは揺れるという発想をしまし
た。
09 老いらくの想いはあれど海深く (志方 20.10.18)
古希過ぎて、世相に品格や衒いがなくなり、発した言葉が簡単に翻る時代、
人への想いだけは大切に護りたいですね。
10 母見る赤子もみじ手伸ばす (吉良 20.10.19)
人間の愛の根源である母子の愛情表現を老いの情愛と対比しました。
11 時翔 (かけ) る孫の明日に夢を置き (小野寺 20.10.21)
12年前もみじのような初孫の手に喜びましたが来年は早中学、孫娘も娘と背
丈を並べるまでになり、瞬く間に成長する姿を見て孫娘の未来に幸あれとそっ
と夢を重ねます。
12 出口の見えぬトンネルの中 (豊 20.10.21)
今の日本は、出口の見えないトンネルの中にあるようです。私たちの世代が
いなくなった後の世界と日本がどうなっていくのか、孫たちの未来が心配です。
13 冬の月明るい未来の道しるべ (新井 20.10.24)
12月会議が終わるころには美しい冬の月が楽しめることでしょう。その頃に
は明るい未来が少しでも見えるといいのに…という願いを込めました。
14 熱燗並べDX (ディエクス) 議論 (深瀬 20.10.25)
コロナ禍とクラウドなどのIT技術の進歩で、DX(Digital Transformation)の
勢いが続きそうです。20年ほど前、パソコン通信からISDNのインターネットに
移行したころを思うと、これからの未来社会は明るいのか想像を超えます。
15 横文字と略語が並ぶ危うさよ (豊 20.10.25)
深瀬さんの句で初めてDX という言葉を知りました。私が世の中に遅れてい
るのかもしれませんが、文章でも会話でも横文字と略語が多くなって肝心の日
本語が忘れられているような気がします。
16 お好み焼きかアベノミックスは (志方 20.10.26)
巷には、高齢者には難解な横文字が溢れ、文言がどういう表現なのか、理解
不能なケースによく遭遇します。近年、最も意味不明なフレーズをお好み焼き
の一種かなと思っておりました。自身の名前を付けて、世界に吹聴していた奥
ゆかしき御仁がいましたが、世界に冠たる借金で、経済対策を行った様ですが、
何でも一番で目標達成で隠居のようです。これぞヤマトダマシいに極みですか
ね。 [美しい日本万歳]
17 太閤の花見茶会や貴も賤も (深瀬 20.10.27)
前政権は、モリカケ問題、桜を見る会などの隠蔽体質が目立ちましたが、や
や無理筋ですが、太閤秀吉の茶会や花見の風流のオープンさを対比しました。
18 浪花 (なにわ) の春は夢のまた夢 (小野寺 20.10.28)
権勢を誇った太閤秀吉も病の床の中で五大老の筆頭家康に嫡男秀頼の後事を
頼みますが大阪城は落城、歴史の歯車は浪花から江戸に移っていきます。秀吉
の願った浪花の春は夢の彼方となりました。
コロナの世界蔓延も誰も予期しなかった事ですが世の中が、変わって行きま
すね。
19 送別会幾年先の桜酒 (新井 20.10.31)
今年の三月に予定されていた職場の送別会が「延期」とされました。それか
ら、小野寺様の仰る通りこのような事態なるとは思わなくて…、一体いつにな
るのか…桜の咲く季節に美味しいお酒を皆で頂く夢を見るような気持になりま
す。
20 男一人の秘湯巡りよ (吉良 20.11.02)
定年退職の送別会も中止になり、妻には友達と旅行したいと断られ、一人で
旅する男の何とも言えない切なさよ。
21 幾山河越え来し峰に風光り (小野寺 20.11.05)
吉良さんの男の哀愁を受けて我々団塊の世代は振り返ると競争の時代でした。
その中で家庭を守り世の荒波を潜り抜けてきたという密かな自負もあります。
さりとてそれが何だと言う一末の諦観もあります。男はやはり独りなのだ、と
ふと思う時があります。昔、男は黙ってトリスを飲む、という宣伝がありまし
たね。
補。「男は黙って」は、サッポロビールだったと思います。トリスは、柳原
良平氏によるアンクルトリスの絵が懐かしいです。コピーライターは開高健の
ようでした。 (深瀬)
22 セピア調なるモードで撮れば (豊 20.11.05)
昔の写真はセピア色に変色して残っています。現在のデジタルカメラの写真
も、セピア調モードで撮影すれば古き懐かしい風景になります。
23 烏賊 (イカ) 釣火星空ぬぐい釣果待つ (吉良 20.11.07)
セピア色は烏賊墨の色。烏賊釣り漁船の漁火の光りの下で大漁を待つ熱気、
夜空の星も拭われたように目立たない光景を読みました。
24 白装束の滝行の女 (ひと) (深瀬 20.11.08)
水しぶきをあげる夏の滝に打たれる白装束の女性に転換してみました。
25 艶やかな衣装の清く凛と立つ (新井 20.11.08)
滝の修行(?) が終わった後、色鮮やかな洋服に着替えて、かつ心は清らかに
凛として次へ向かう…のイメージで作りました。
26 シラノの想い木漏れびに秘め (志方 20.11.08)
何か恋がテーマばかりで、恋愛経験の乏しい爺さんとしては、そんなことあ
ったかなという情景が中々浮かばないですね。映画でシラノドベルジュラック
の最後のシーンを想い、凛としたロクサーヌを胸に焼き付けたか秋の陽ざしの
中で、静かに眠りについた情景を思いだしました。
こんな献身的な恋に感動した、若き日を思いをよんでみました。気恥ずかし
いですが。。。。。。
27 十代は武蔵お通に胸おどり (深瀬 20.11.09)
恋は多様だと思います。十代のころ、吉川英治の小説「宮本武蔵」のなかの
武蔵とお通さんの恋物語に感動していました。
28 散りゆく生命 (いのち) 煌めくや今 (小野寺 20.11.12)
恋に悩んだ稀代の剣豪にも死は一様に訪れます。時の差こそあれ、人は皆死
から逃れる術はありません。されば、生きている日々の一瞬一瞬を己に誠実に
輝いて生きたいものです。
29 李陵往く月の砂漠に影哀し (志方 20.11.15)
未だ見ぬシルクロードへの憧れは消えがたく、李陵という悲劇の漢の武将は
特に脳裡に残ります。はからずも、匈奴の捕虜となった李陵の心象をよんでみ
ました。
30 銀河を見上げ歌口ずさむ (吉良 20.11.17)
李陵も望郷の思いで夜空を見上げたのでは。こちらは小学校でならった童謡
「月の砂漠」を懐かしみ思わず口ずさんでしまった老人。
31 秋高く鳶の眼 (まなこ) は尾根を追い (小野寺 20.11.21)
吉良さんの月の砂漠の美しい夜のイメージから明るい空に転じました。秋晴
れの空高く天空で輪を描く鳶 (とび) の眼は風に乗り遥か眼下の紅葉の尾根を
追いかけるのでしょうか。
32 猟師の銃は獲物を狙う (豊 20.11.21)
上空から地上の餌を狙っている鳶の姿から、人間世界の猟師に場面を変えて
みました。
33 徒競走待てる号砲胸躍る (吉良 20.11.22)
銃のパンという音で、小学生の運動会:徒競走の号砲のなる数秒間の何とも
言えない緊張感を思い出させられます。
34 大人の散歩気になる歩数 (新井 20.11.22)
子供の時はスタートにドキドキしたけれど、大人になった今は、ダイエット
が気がかりです。
35 西行の旅の終わりは花の下 (豊 20.11.22)
漂泊の歩く旅を重ねた西行は、現在の大阪府南河内郡の弘川寺で没しました。
望みどおりの「花の下」にて。
36 蓮華畑に大地の目覚め (志方 20.11.23)
どんな人にも、等しく終焉は訪れますが、大地は四季の恵みを毎年繰り返し
受けます。幼き頃の記憶ですが、春先に咲き誇る蓮華の光景に何故かワクワク
したものでした。今は、化学肥料や農薬が闊歩し、蓮華畑が余り見あたりませ
ん。こんな時代に西行は何を想うのか?