七句会 第5 回 自由連句プロセス
初折表
01 発句 秋 白菊を一輪供え別れかな (豊)
02 脇 月 酒盃に映る下弦の月も (志方)
03 第三 秋 秋の空希望の灯り照らすらん (新井)
04 四句目 雑 駿馬疾駆せん草原の夢 (吉良)
05 月の座 夏 韃靼の夏野翔けるや蒼き月 (小野寺)
06 折端 夏 蛍となりし義経あわれ (豊)
初折裏
07 折立 雑 屋島にはうどんに欠かせぬネギ生姜 (志方)
08 二句目 恋 肩寄せ聞いた「青春時代」 (深瀬)
09 三句目 恋 カキツバタ笑み忘れしや君と老ゆ (吉良)
10 四句目 雑 早朝のさざ波青く今井浜 (新井)
11 五句目 雑 母として初めての子を抱く笑顔 (豊)
12 六句目 雑 夭夭たる子華燭の日待つ (小野寺)
13 月の座 冬月 家出してひとり見上げし冬の月 (深瀬)
14 八句目 冬 孫の靴跡霜柱踏み (志方)
15 九句目 雑 光降る雪解の小径疾風 (はやて) 舞ひ (小野寺)
16 十句目 雑 大河をたどり黄金郷へ (吉良)
17 花の座 花 としまえん回転木馬の華は散り (新井)
18 折端 春 一年生は胸膨らませ (豊)
名残表
19 折立 春 春陽うけ修羅場くぐりし過去想ふ (深瀬)
20 二句目 雑 つくしの頭目じりが下がり (新井)
21 三句目 雑 雲に乗り幸せ探す旅に出る (豊)
22 四句目 雑 春雷和すや鎮魂の鐘 (小野寺)
23 五句目 夏 東北のマウンドに立つメジャー球 (新井)
24 六句目 夏 六甲おろしよ七夕飾れ (志方)
25 七句目 雑 琵琶の音の諸行無常もコロナ禍に (深瀬)
26 八句目 恋 一人寂しく「枯れ葉」を歌う (吉良)
27 九句目 恋 寒い朝思い続けて半世紀 (志方)
28 十句目 雑 オペラ座へ行くフランス旅行 (豊)
29 月の座 月 天空に恋路映せる月あかり (吉良)
30 折端 秋 相撲部屋にて別れの秋に (新井)
名残裏
31 折立 秋 丸型の七輪にのせ秋刀魚焼く (豊)
32 二句目 雑 ニシン御殿の大漁いずこ (小野寺)
33 三句目 雑 老い桜切り株哀し池影なく (志方)
34 四句目 雑 アクリル板に世相行き交う (深瀬)
35 花の座 花 感染の鬱吹き飛ばせ散る桜 (小野寺)
36 挙句 春 川みず温み命はぐくむ (吉良)
ご参考 詠み手による付け筋
01 発句 駒東の同級生をはじめ、有名無名に限らず、コロナに感染して亡
くなった人が出た一年でした。その人たちへの追悼の思いを込めま
した。 (豊さん。20.11.25)
02 脇 コロナ下で、墓参もままならぬ酒好きの朋に、捧げた一杯を繋い
でみました。 (志方さん。21.02.16)
03 第三 秋になれば、ワクチンの効果も表れ、今よりずっと安心で経済も
活発化しているのではないか…、という期待です。
…、本心としましては、ちょっと幼いですが、まあいつも幼いと
思います。それから、ちょっと「悼む」感じの句が続いていたので、
急に明るくすると不謹慎かと思ったのですが、そういう気を回す必要
はなさそうですね。 (新井さん。21.02.18)
(はじめにいただいた句が、亡くなった人を偲ぶような感じでしたので、
僣越ですが、わたしから少しコメントしました。深瀬)
04 四句目 雲一つない澄んだ秋空は果てしない草原を想像させます。漢文の
清田先生、河村先生の授業で男のロマンを掻き立てるこんな話を聞いた
ように思います。 (吉良さん。21.02.19)
05 月の座 やはり、川村先生の漢文の授業を思い出しております。モンゴル
大高原を疾駆して東西に大帝国を築いた元民族の興亡の歴史を眺めた蒼い
月に思いを馳せます。 (小野寺さん。21.02.20)
06 折端 蒼き狼チンギスハーンは源義経ではないかという伝説があります。
表六句には人名を詠んではいけないという式目があるようですが、
前句までの流れに関連させてあえて入れてみました。 (豊さん。21.02.20)
初折裏
07 折立 瀬戸内は源平の戦跡が、観光名所として八百年の時空を超え、当
時を偲んで変わらぬ輝きを放っております。現在は、讃岐うどんの
名店があり、本四架橋工事時代によく通いました。源平といえば主役は
義経、讃岐うどんといえば釜揚げに、ネギと生姜。うどんの発生は、
空海が唐から持ち込んだものとされており、西域を通してローマにも伝
わり、パスタになったようです。あの白いうどんが、日本、中国、西欧
と繋がっていることに、何かしら壮大なロマンを感じます。転換が自由
過ぎますかね? 志方より(今日は禁酒日です) (志方さん。21.02.20)
ぎた今聞いてもかなり新鮮な感じがします。歌詞概要は「卒業までの 半年で
答を出すと言うけれど 二人が暮らした年月 (としつき) を 何で計ればい
いのだろう 青春時代が夢なんて あとからほのぼの想うもの 青春時代の真
ん中は 道に迷っているばかり。二人はもはや 美しい 季節を生きてしまっ
たか あなたは少女の時を過ぎ 愛を悲しむ女 (ひと) になる 青春時代が夢
なんて あとからほのぼの想うもの 青春時代の真ん中は 胸に刺 (とげ) さ
すことばかり。」 (深瀬。21.02.21)
てもなお、昔の思い出を懐かしんでいる老人。カキツバタは幸せの花言葉で、
高校の古文で習った在原業平の和歌で覚えています。もともと恋は苦手で
難しいテーマ。 (吉良さん。21.02.22)
10 四句目 カキツバタの青さを思い浮かべたときに、20年程前に行った今井浜
での海の青さを思い出しました。 (新井さん。21.02.23)
11 五句目 「青春時代」「君」「旅の思い出」と続いたので、恋人同士で旅を
した二人が結婚して子供が生まれた喜びを詠んでみました。 (豊さん。21.02.23)
12 六句目 中国最古の詩集 詩経の中にある漢詩 桃夭 (とうよう) の一節
桃の夭夭たる 芍芍たる其の華 之の子 ゆき帰がば (この子ゆき嫁がば)
其の室家に宜しからん。
桃の木の若々しく華やぎの花のような娘が嫁に行けば、きっと嫁ぎ先で幸せ
に行くでしょう。と娘の結婚の喜びの詩で漢文の河村先生の授業のくだりでし
た。
二句青春時代から五句で子供の誕生がありその娘がやがて華やかに成長して、
嫁いでゆく喜びを詠いました。 (小野寺さん。21.02.27)
13 月の座 家族とはいろいろあるなかで、成長していくもののように
感じます。死ぬときはどうなるのか、少し気になります。 (深瀬。21.02.27)
14 八句目 冬の陽ざしが和らいだ朝、孫二人を連れて朝の散歩時、落ち葉が敷き詰めら
れた道での霜柱。サクサクという音が珍しいのが、二人ではしゃいで足跡を大
地に刻んでおりました。自然環境が比較的保存されている散策路で、幼き日の
孫とのふれあいでした。 (志方さん。21.03.01)
15 九句目 志方さんの霜柱を孫達と踏んだ句を受けて、厳しい冬場が過ぎた雪解け
水流れる岩手釜石の小道を祖父に手を引かれて歩いた祖父の手の温もりの風景を思
い出します。 (小野寺さん。21.03.04)
16 十句目 雪に反射した光はまるで黄金のような輝きを連想させます。スペインの
大航海時代、アマゾンの奥地に黄金郷 (エル・ドラード) があるとの伝説がヨーロ
ッパに広まり、アンデスの雪解け水をたたえたアマゾン川を辿り、多くの探検
家が命を亡くしたと言われています。 (吉良さん。21.03.05)
17 花の座 エルドラドといえば、閉園したとしまえんの回転木馬「カルーセル
エルドラド」を思い描きました。このご時世、回転木馬の夢のような華やぎも
散ってしまったようです。 (新井さん。21.03.07)
『としまえん』カルーセルエルドラド、最終運転を終了 解体しメンテナン
スへ (ORICON NEWS)
https://www.oricon.co.jp/news/2170643/full/
注。「花」と「華」はやや異なりますが、事務方の依頼時の手違いもあり、
よろしくお願いします。 (深瀬)
18 折端 としまえんは子供たちにとって楽しい遊園地でした。閉園は、一種の
卒業だと言えるでしょう。卒業の後は新入学です。小学、中学、高校、大学、
一年生は皆新しい経験に胸を膨らませています。 (豊さん。21.03.07)
名残表
19 折立 時間は一気に飛んで老境に入り、春の庭先などで、過去に数々の
修羅場をくぐり抜けてきた体験を想い起こし、感慨にふけっている様を
詠みました。 (深瀬 。21.03.08)
20 二句目 過去の想い出として、子供の時、近所の空き地で三月に出始めたつ
くしを見つけるのが楽しみでした。新しい季節を思ってうきうきして微笑
みが浮かんだものです。また幼くてすみません。 (新井さん 。21.03.13)
21 三句目 幸せな気分になると目じりが下がります。つくしは野に生えるので、
それと反対に対応させて、空の雲を入れました。ここまでの句の流れを転換
させたつもりです。 (豊さん 。21.03.13)
22 四句目 豊さんの雲に乗りの展開を受けて
昨日は関東から東北にかけて春の雷雨が激しく轟きました。おりしも、
あの大震災から10年の歳月がながれて故郷釜石では3.11の大震災復興
支援の梵鐘が希望への願いを込めて、市民により打ち鳴らされました。
激しく走る雷光の轟きは、鐘の音と唱和して新しい再生の未来に向けての
号砲の様でもありました。 (小野寺さん 。21.03.14)
23 五句目 プロ野球、この夏はヤンキース帰りの田中投手の投球が楽しみです。
東北も活気づいて皆さんが元気になると思います。再生への応援をこめ
ました。 (新井さん 。21.03.14)
24 六句目 田中投手は甲子園や仙台に育てられたとおもっております。
例年、わが阪神タイガースは、春先好調でも、フアンとしてはせめて、
鯉幟が泳ぐまで、紫陽花が散るまでと儚い望みをたくしておりましたが、
今年は陸奥の七夕(8月) までは楽しませてくれるかなと、控えめな願望
をいだいています。
(本当はぶっちぎりの優勝を確信していますが、せめてコロナウィルスと
巨人とだけは退治して欲しい。) (志方さん 。21.03.15)
25 七句目 野球の応援のにぎやかさと頑張ってもうまくいかないことも
あることを対比してみました。ややネガティブな見方かもしれません
が、いろいろな変化に柔軟に対応できることが大切ではないかと
感じています。 (深瀬。21.03.15)
26 八句目 コロナ禍で仲間とカラオケにも行けない独身の男性が、有名
なシャンソン「枯れ葉」 (ジョゼフ・コズマ作曲、ジャック・プレ
ベール歌詞:「愛し合った二人の砂の足跡も、とどまることなく波
間に消えてゆく」)を歌います。方丈記「ゆく河の水は絶えず
して・・・」に通ずる心境でしょうか。 (吉良さん 。21.03.16)
27 九句目 さゆりストを自称して、はや半世紀を上回り、二人でいれば
暖かくなるフレーズ。青春は遠く過ぎ去りましたが、心に残る歌謡
曲です。 (志方さん 。21.03.26)
28 十句目 「枯れ葉」「寒い朝」と歌が続いたので、オペラを連想
しました。さらに、句の視野を世界に広げてみました。
20年ほど前パリに旅行したことがあります。その時はオペラ座の
中には入らず外から建物を見ただけでしたが。 (豊さん 。21.03.26)
29 月の座 オペラ座の天井にはシャガールのほんのりとした恋人の絵
が描かれています。月明りが二人の行くてを照らし、行く末を祝って
いる様子を描きました。 (吉良さん 。21.03.28)
30 折端 パリでのシャガールが描いた恋人…ということで、アナウン
サーの河野景子さんを思い浮かべました。フジテレビの社員時代にパリ
に駐在し、貴乃花と結婚して相撲部屋の女将になったものの、二年前程
秋に離婚されていました。
一人の人生を語るには無理があるかと思いましたが…。思いつくま
まの楽しみで詠みました。河野さんは最近、「コトバノケイコ」という
本を出版なされていて、ちらっと立ち読みしましたが、アナウンサー時代
に会得した、腹式呼吸や発声について書かれていて、おもしろかった
です。 (新井さん 。21.03.28)
名残裏
31 折立 相撲の土俵は丸くなっています。「あはれ秋風よ 情あらば伝へ
てよ…」佐藤春夫の有名な詩「秋刀魚の歌」の書き出しです。焼き秋刀魚
を見ると、いつもこの詩を思い出します。 (豊さん 。21.03.28)
32 二句目 豊さんの秋刀魚の句から近年は海流の異変や近隣諸国の乱獲により
秋刀魚の取れ高が減ってきてます。満州から引き上げて来たなかにし礼に
とっても、ひと頃隆盛を極めた、ニシン漁の失敗の苦悩から石狩挽歌の
名曲が生まれました。北原ミレイの哀調の調べです。
(小野寺さん 。21.04.03)
33 三句目 栄枯盛衰世の常なれど、何故かものの哀れを誘う。井之頭
公園の池に、例年その水面を飾っていた老い桜、今年の花見に姿なく。
新しい切り株だけが、その老木の痕跡。 (志方さん 。21.04.05)
34 四句目 コロナ感染予防のためいたるところにアクリル板の仕切り
がおかれています。これまでにはありえなかったような世相が写し出
されているような感じがします。 (深瀬。21.04.06)
35 花の座 世の中感染の恐れ一色で、春の日差しが眩しい。昨今外出
もままならない世相ですが怖いのは感染そのものもさる事ながら人の
心に忍び寄る鬱屈した感情です。散りゆく桜に、日本人としてのもの
の哀れを喚起し舞い散る花びらに人の心に宿る鬱を連れ去って欲しい
という願いを込めて、この句を創りました。 (小野寺さん 。21.04.11)
36 挙句 コロナ禍、世の中がどんなに混乱しても春になると生命の
営みが始まります。我々も耐えて努力すればいつか春が訪れることを
信じたいものです。
発句で人の死について詠まれており、挙句には生命の誕生を読み
ました。 (吉良さん 。21.04.12)