七句会の集まり(13.12.01)の報告
- 日時 2013年12月01日 (日) 午後2 時~4 時頃
- 場所 上智大学四谷キャンパス 9 号館 454教室
- 参加者 小幡、土川 (以上敬称略) 、深瀬
(志方さんは、大学までこられましたが、教室が分からず、残念な
がら参加ならずでした。)
- 内容
1.第六回句会の選句
2.各自の俳句との関係を紹介と討議
配布された資料は、次の通り。(pdf形式で添付)
(1) 七句会勉強会メモ [土川さん]
・最近の心境です。
・森澄雄俳句集 (上・下)(永田書房) を読みました。
(2) 芭蕉の俳句の世界とは 蕪村、一茶と対比して [深瀬]
[13.12.01 資料01]
七句会勉強会メモ
2013.12.1. 土川春穂
■最近の心境です。
自分の詠んだ句が選ばれなくても、「それは未熟だからしょうがない。」と
思えるのですが、選者が選んだ句や人々に人気のある句が私には「何故いいの
かちっとも分からない。」というのが辛いですね。すなわち、それは「いい句
は何かが分かっていないので、いくら頑張ってもいい句を作れない。」という
ことを意味しているからです。やはり私は俳句には向いてないかな。
■森澄雄俳話集 (上・下)(永田書房) を読みました。
森澄雄(1919-2010) は人間探求派加藤楸邨の一番弟子です。この本は2004年
7月から2010年2月まで毎月行われた句会(52 回分) での講話の全記録です。
毎回、門人の投句に痛快な指摘と添削がなされ、その情熱と迫力に圧倒されま
す。読んで面白い本です。
その中で多くのことが語られていますが、一貫して繰り返し言われているこ
との一つは「 ああだこうだと理屈を言うな」 です。私には何か理屈で、何か理
屈でないのか今一つ理解できませんでしたが、「 ‥‥理屈はどこまでも理屈な
んです。人間の小さな頭で考えるからです。頭を働かせず、向う側の自然が見
えないと駄目なんです。つまり物と物を包んでいる虚空が同時に見えないと、
本当に見たことにならない。物が見えるということは心に宿った一瞬のひかり
なんです。その一瞬のひかりを言い留めるのが俳句なんだと・・・」 。
以下に、森澄雄に添削された句のビフォア・アフターと彼の指摘の例を示し
ます。
頬張って老いのはにかむ雛あられ
→頬張りて老いはにかめる雛あられ (添削で理屈がなくなる)
足裏に畳冷たき夏隣
→足裏に畳冷たし夏隣 (冷たきは説明、実感がない)
打ち水に灯しの早き神楽坂
→打ち水に早き灯の神楽坂 (説明でなく情景で)
青葉ずく啼いて暗闇祭来る
→青葉ずく啼ける暗闇祭かな (理屈じゃない)
妻寵より馬寵へ歩き風薫る
→妻馥より馬馥の道や風薫る (理屈がなくなり季語が大きく包む)
夏鶯こゑのほがらや極楽寺
→夏鶯こゑしきりなる極楽寺 (作者の勝手な感想)
水満ちて川の濁れる牛蛙
→水満ちて川濁りたる牛蛙 (「の」が説明)
舟遊び深き緑の嵐山
→舟遊び緑の深き嵐山 (説明的)
小賀玉の花の香ある極楽寺
→小賀玉の花の香あり極楽寺 (こういう寺ですという説明)
ごよろぎの浜に来たれば冷酒酌み
→こよろぎの浜に来たりて冷酒酌む (仮定の条件は理屈)
忘られて菅笠古りし鮎の宿
→忘られし菅笠古りし鮎の宿 (経過の説明でなく現在を)
私なり解釈して、日本語文法的(技巧的)にまとめると
・時間的経緯や理由の説明でなく、現在の情景を詠う。
・下五の名詞を中七の形容詞や動詞の連体形で修飾するのでなく、中七を終止
形で切る。
・動作(変化)でなく今の状態を詠う。
- ヒトを主語にして、他動詞で動作を表現するのでなく、モノを主語にして
自動詞で状態を表す。
(日本人は自動詞を使った表現が好きということと関連しているように思う
。)
- 他動詞は、ヒトが主語で、目的語を取って、動作を表す。
→(ヒトが)本を折る。
- モノを主語に、自動詞・テイル形・ある/ いる文・・形容詞文などで状態を
表す。→本が折れる。
ただ、彼の言う“本質”は、たぶん文法(言葉遣いの技巧)というよりは物の
認識なんだと思います。
以上
[13.12.01 資料02]
七句会資料(13.12.01) 深瀬
芭蕉の俳句の世界とは - 蕪村、一茶と対比して -
1.芭蕉、蕪村、一茶の俳句の区分けの試み
芭蕉の俳句を、無常観、生命観、自然観 (雄大な自然との一体感) に区別し
てみる。
蕪村の俳句に、絵画的なものに注目してみる。
一茶の俳句に、自虐的なもの、同情的 (他の生き物もの気持ち) 、に注目し
てみる。
(1) 芭蕉俳句抄
01 猿を聞く人捨子に秋の風いかに 生命観
02 道のべの木槿 (むくげ) は馬にくはれけり 生命観
03 手にとらば消えんなみだぞあつき秋の霜
04 碪 (きぬた) 打ちて我にきかせよや坊が妻
05 死にもせぬ旅寝の果よ秋の暮れ 無常観
06 よく見れば薺 (なずな) 花咲く垣根かな 生命観
07 古池や蛙飛びこむ水の音 自然観
08 旅人とわが名呼ばれん初しぐれ 無常観
09 草臥 (くたび) れて宿かる頃や藤の花
10 父母 (ちちはは) のしきりに恋 (こひ) し雉子 (きじ) の声 生命観
11 若葉して御めの雫ぬぐはばや
12 おもしろうてやがて悲しき鵜舟 (うぶね) かな
13 物言えば唇寒し秋の風
14 草の戸も住替 (すみかは) る代 (よ) ぞひなの家 無常観
15 行く春や鳥啼き魚の目は泪
16 田一枚植ゑて立ち去る柳かな
17 夏草や兵 (つはもの) どもが夢の跡 無常観
18 閑さや岩にしみ入る蝉の声 自然観
19 五月雨 (さみだれ) をあつめて早し最上川 自然観
20 荒海や佐渡に横たふ天の川 自然観
21 一家 (ひとつや) に遊女も寝たり萩と月
22 初しぐれ猿も小蓑 (こみの) をほしげなり 生命観
23 病雁 (びょうがん) の夜寒に落ちて旅寝かな 無常観
24 菊の香や奈良には古き仏たち
25 この道や行く人なしに秋の暮れ 無常観
26 秋深き隣は何をする人ぞ
27 旅に病んで夢は枯野をかけめぐる 無常観
28 山路来て何やらゆかしすみれ草 生命観
29 月はやしこずゑはあめを持ちながら 自然観
30 山も庭も動き入るるや夏座敷 自然観
31 雲の峰幾つ崩て月の山 自然観
32 暑き日を海にいれたり最上川 自然観
33 手をうてば木魂に明る夏の月 自然観
(2) 蕪村俳句抄
01 古庭にうぐひす鳴きぬ日もすがら
02 春の海ひねもすのたりのたりかな
03 をの入れて香に驚くや冬木立ち
04 くすの根を静かにぬらす時雨 (しぐれ) かな 絵画的
05 不二 (ふじ) ひとつうづみ残して若葉かな 絵画的
06 ぼたん散つてうち重なりて二三片 絵画的
07 石工 (いしきり) ののみ冷したる清水 (しみず) かな 絵画的
08 菜の花や月は東に日は西に 絵画的
09 夕風や水あをさぎの脛 (はぎ) を打つ 絵画的
10 涼しさや鐘を離るる鐘の音 絵画的
11 五月雨 (さみだれ) や大河を前に家二軒 絵画的
12 行く春や重たき琵琶 (びは) の抱きごころ
13 白梅に明くる夜ばかりとなりにけり
14 おそき日の積もりて遠き昔かな
15 閻王 (えんわう) の口やぼたんを吐かんとす 絵画的
16 朝顔や一輪深き淵 (ふち) の色 絵画的
17 白露やいばらの刺 (はり) に一つづつ 絵画的
18 月天心貧しき町を通りけり 絵画的
19 ねぎ買うて枯れ木の中を帰りけり 絵画的
注。蕪村には、古今の故事を題材に詠んだ句も多いが略してある。
(3) 一茶俳句抄
01 秋雨や乳放 (ちばな) れ馬の旅に立つ 同情的
02 夕つばめわれにはあすのあてはなき 自虐的
03 ふるさとやよるもさはるも茨 (ばら) の花
04 これがまあつひの住みかか雪五尺 自虐的
05 うつくしや障子の穴の天の川
06 悠然 (いうぜん) として南山 (なんざん) を見るかはづかな
07 むまそうな雪がふうはりふうはりと
08 われと来て遊べや親のないすずめ 同情的
09 涼風 (すずかぜ) の曲がりくねつて来たりけり
10 すずめの子そこのけそこのけお馬が通る 同情的
11 めでたさも中ぐらゐなりおらが春 自虐的
12 蟻 (あり) の道雲の峰より続きけり
13 ともかくもあなた任せの年の暮れ
14 大ほたるゆらりゆらりと通りけり 同情的?
15 秋風やむしりたがりし赤い花
16 まかりいでたるはこのやぶの蟇 (ひき) にて候 (さうらふ) 同情的?
17 露の世は露の世ながらさりながら 自虐的
18 麦秋 (むぎあき) や子を負ひながらいわし売り
19 春めくややぶありて雪ありて雪
20 やれ打つなはへが手をする足をする 同情的
21 寝せつけし子の洗濯や夏の月
22 一人 (いちにん) と帳面につく夜寒かな
23 次の間の灯 (ひ) で膳 (ぜん) につく寒さかな
24 夕月や鍋の中にて鳴く田にし 同情的
25 名月のごらんのとほり屑家 (くづや) かな 自虐的
26 衰へや榾 (ほだ) 折りかねるひざがしら
2.芭蕉の俳句の世界
(1)無常観
・芭蕉の人生は旅。おくのほそ道、等。
「月日は百代 (はくたい) の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。」
・鴨長明 方丈記
「行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮ぶうたか
たは、かつ消えかつ結びて、久しく止まる事なし。世の中にある人と住家と、
またかくの如し。」
・徒然草 兼好法師
・日本人にとって無常観は、伝統的なもの。「人生五十年、化天のうちに比ぶ
れば、夢幻の如くなり」敦盛。もののあわれ論 (源氏物語) 。
・禅の世界。無の思想。
(2)生命観
・小さな命を通して生命全体、宇宙全体を観る態度。
(3)自然観
・雄大な自然の景色と一体となり、広大な宇宙を感じ取る。
・日本の自然の四季の変化の美しさを介することもある。「春は花夏ほととぎ
す秋は月冬雪さえて冷 (すず) しかりけり」道元。
・柳田國男の死者の霊魂の行くところとしての山里。
3.現代社会
・産業社会のなかで、目標遂行 (プロジェクト) に、日々、追われている。機
能、効率、品質向上、コスト低下、等。PDCAサイクル。
・経済生活、物質的欲望に絶えず刺激され、無常観、生命観、自然観に、ここ
ろを遊ばせるゆとりを失っている?
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