2020年4月12日日曜日

  古典解釈シリーズ
  湯沢賢之助著、文法全解  芭蕉名句、旺文社、昭和43年1 月初版
 連句編  1.猿蓑  市中の巻 P,103 ~119

  猿蓑読解 (前半のみ)
  芭蕉七部集の五番目。元禄三年四月ころから約一年かけてできた。
①連句
  初表 (表六句)
01 市中 (いちなか) は物のにほひや夏の月 凡兆(夏の月・夏)
02  あつしあつしと門 (かど) 々の声 芭蕉(あつし・夏)
03  二番草取りも果さず穂に出でて 去来(二番草・夏)
04  灰うちたたくうるめ一枚 凡兆(雑)
05  この筋は銀も見しらず不自由さよ 芭蕉(雑)
06  たゞとひゃうしに長き脇指 去来(雑)
  初裏 (ここから二の折の表半分までは変わった句も変化もつけてよい。)
07  草村に蛙 (かはず) こはがる夕まぐれ 凡兆(蛙・春)
08  蕗 (ふき) の芽とりに行燈 (あんど) ゆり消す 芭蕉(蕗の芽・春)
09  道心のおこりは花のつぼむ時 去来(花・春)
10  能登の七尾の冬は住みうき 凡兆(冬・冬)
11 魚の骨しはぶるまでの老いを見て 芭蕉(雑)
12 待人 (まちびと) 入れし小御門 (こみかど) の鎰 (かぎ)  去来(雑・恋)
13 立ちかかり屏風を倒す女子 (をなご) ども 凡兆(雑)
14 湯殿は竹の簀子 (すのこ) わびしき 芭蕉(雑)
15 茴香 (うゐきやう) の実を吹き落とす夕嵐 去来(茴香の実・秋)
16  僧ややさむく寺にかへるか 凡兆(ややさむ・秋)
17  さる引の猿と世を経る秋の月 芭蕉(秋の月・秋)
18  年に一斗の地子 (ぢし) はかるなり 去来(雑)
  名残ノ表
19  五六本生木つけたる潴 (みずたまり)  凡兆(雑)
20  足袋ふみよごす黒ぼこの道 芭蕉(雑)
21  追っ立てて早き御馬の刀持 去来(雑)
22 でっちが荷 (にな) ふ水こぼしたり 凡兆(雑)
23 戸障子もむしろがこひの売屋敷 芭蕉(雑)
24 てんじゃうまもりいつか色づく  去来(てんじゃうまもり・秋)
25 こそこと草鞋を作る月夜ざし 凡兆(月・秋)
26  蚤をふるひに起きし初秋 芭蕉(初秋・秋)
27  そのままにころび落ちたる升落し 去来(雑)
28  ゆがみて蓋のあはぬ半櫃 (びつ)  凡兆(雑)
29  草庵にしばらく居ては打ちやぶり 芭蕉(雑)
30  いのち嬉しき撰集の沙汰 去来(雑)
  名残ノ裏
31  さまざまに品かはりたる恋をして 凡兆(雑・恋)
32  浮世の果は皆小町なり 芭蕉(雑)
33  なに故ぞ粥すするにも涙ぐみ 去来(雑)
34  御留守となれば広き板敷  凡兆(雑)
35  手のひらに虱這はする花のかげ 芭蕉(花・春)
36  かすみ動かぬ昼のねむたさ 去来(かすみ・春)


②通釈・付合
01通釈  昼間の暑さはないが、物のにおいがたちこめ、涼しそうな月がでてい
る。
02付合  暑さに耐えきれず、夕涼みをしている人々の情景に。
  脇句は発句によく応じて詠む。体言止めが原則。
03付合  農家に転じ例年にない暑さのため稲の生育が早いという会話に。
  第三句目は大きく情景を転ずる。「て、に、にて、らん」止め。
04通釈  炉端で焼いているうるめ (ひもの) 鰯。
  付合  農繁期の農家の食事の様子に。
  四句目からは平句となり軽く受けてよい。
05付合  粗末な食事から山国の風景に。村人は銀貨をしらないので旅行者がな
げいている。03、04が農家の風景なので、片田舎に来た都会の人を登場させ変
化させた。
  月の定座だが発句にあるので詠んでいない。
06付合  前句の人を突拍子もなく長い脇差しをさした博徒とした。  
  脇差は武士以外でも一本させた。長脇差は町奴、博徒の異称。
07通釈  長い脇差しをさしているが臆病な奴なのだ。
08付合  蛙をこわがる人を若い女性とみ、日暮れころにこわがった拍子に行燈
を消してしまった。
09付合  蕗の芽をとりに出た女性を僧庵の尼とみ、ぱっと消えた行燈のように
世の無常を悟って発心したのは若い時のことだ。
  花の座。花の定座は前へ引き上げることはできる。
10付合  前句をある僧侶の物語りとみ、かつて住んだ七尾の寒さを振り返る。
  月の十日間は能登で修行した「撰集抄」にある見仏上人を想定している。
11付合  前句をさびしい漁村とみ、そこに老いをむさぼる人物がいるとした。
  前句の衰退の余情から衰老と移った。
  例外的に、春から冬に転じた。
12通釈  門番が通ってきた恋人を入れた。
  付合  前句の老人を「源氏物語」の「末摘花」の巻の門守りの翁というよう
に連想した。俤 (おもかげ) 付。
13通釈  さびれた屋敷内に招き入れられた待人をみようとする女中たちのはし
たない行動を詠んだ。恋の句。
14付合  前句の屏風を湯殿の囲いとみ、前句の御殿の世界を場末の旅宿に転換
した。
  前句の浮き立ったところを巧妙に抑えた。
15付合  湯殿の近くの茴香の実が秋の夕風にこぼれ散るわびしい風景。
  これまでは人間世界の人事を詠んできたが、ここでは景色を詠んでいる。
16付合  前句の蕭条たる気分をみ、その夕景に僧衣をひるがえしとぼとぼ歩く
僧侶をみた。
17付合  前句とは独立した句。二句あわせて世相を述べた。前から秋の句が三
つ出たので月を出した。
18付合  猿回しの貧しい生活でも一年の一斗の年貢は納めて正直に生きている
のだ。










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