七句会のみなさま
第三十二回の選句結果を踏まえて、感想や自句自解、等をおよせいただき、
たいへんありがとうございました。
およせいただいたものを、作品集とともに、名前順に、ほぼそのまままとめ
てお届けします。
今後のやり方に、ご意見、等ありましたら、よろしくお願いします。
七句会のweb http://nanaku-haiku.blogspot.jp/ にも掲載してあります。
今後とも、よろしくお願いいたします。
深瀬 (事務方)
1.第32回 ネット句会 作品集
(01) 秋元さん
・コロナ禍に人ざわめきて花散りぬ
・三密で舫のままの屋形船
・川縁の疎らな人にコロナ風
・コロナ禍で街の喧騒過去の夢
・悪名を歴史に刻む武漢風邪
(02) 小野寺さん
・藤棚の花揺らめきて風光り
・コロナから娘逃げ切り風薫る
・雷光の雲低く垂れ燕来る
・稲妻に立ち向かいをり闇の雨
・万緑を越えて峠は風の音
・春風や睫毛に残る陽は眩し
・桜 (はな) 散りて時の足音流れゆき
・滝の音風は碧 (みどり) の光り帯び
・宵宮に埋み火おこり心燃ゆ
・古都の陽は静かに暮れて春の雨
・断捨離に封切り手紙そっと捨て
・夕闇に花閉じ眠る白牡丹
・青麦をザワザワ鳴らし風渡る
・囀 (さえず) りを窓開けて聴く花雲り
・春雷の轟く彼方光る海
・花筏流れの底を魚の影
・黒髪の匂いゆたかに藤の花
・初恋の遠いいたみか花吹雪
・星々が息留めて聴く華の声
・花冷えや墨の香りに筆を留め
・風蒼く橋桁を翔ぶ初燕
(03) 吉良さん
・日溜りのベランダ光る君子蘭
・夫婦老い酒酌み交わし春惜しむ
以前に愛媛県松山・道後温泉に旅した思い出 3句
・花盛る城壁わびし武者の影
・窯煙る砥部の里にも山桜
・子規偲ぶ道後の湯殿若芽吹く
(04) 桑子さん
今回は主に憎くきコロナに関連して読みました。5 句
・人混みを避けて遠目の桜かな
・今日も又濃厚接触妻ひとり
・さあ出番コロナ退治ぞ鍾馗様
・脳トレと名画で刻む春の昼
・レジ袋冠る烏帽子や春時雨
(05) 志方さん
幼いころから、一番好きな季節と風物詩
・浅緑の風に向かいて鯉昇る
コロナは向日葵の代名詞名のはずだが
・向日葵もゴッホも迷惑コロナかな
物憂げ儚い情景を詠んでみました
・春愁の野に漂うは綿帽子
孫の成長と自生の竹の子の生命力が合わさって
・孫が採る筍肴に酒旨し
目に映る純な緑を表現してみました。
・青紅葉風にきらきら枝騒ぐ
薄いオレンジ色の空の暮色
・朧雲日暮れて遠い山の端に
泥縄、泥沼 壊れた司令塔、深海に引き込まれて欲しい
・引き潮の目を剥く速さアベコロナ
(06) 治部さん
・水温む子らとの会話楽しめり
・流失の橋の骸や桜降る
・久々の河原散歩や山笑う
・コロナとて巣籠る老いに春の雪
・蒲公英のわた飛ぶ校庭や寂しげに
・此の春ぞ過去のシネマでやり過ごし
・細道や垣もうっすら暮れの春
・笑顔みゆシロツメクサの四つ葉かな
(07) 中津川さん
スーパーでの買い物で
・密避けて外で妻待つ春キャベツ
外出自粛でこんな感じかなと、今は猫はいませんが
・自粛して猫と昼寝のあたたかさ
無観客場所のテレビを観て
・ぶちかます音や響ける春の場所
テレワークの次女が土曜日に長時間のネット宴会をした
とのことで
・コロナ禍やネット宴会花の宵
コロナから抜け出ませんでした
・夏近しコロナしか出ぬ俳句かな
学校が再開できずにいます
・春休み終われど校庭 (にわ) に声のなし
桜の名所は今年も綺麗に咲きました
・コロナとて今年も変わらぬ桜かな
(08) 橋本さん
春の句
・鶯の初鳴き遠く雲流る
・花に川新緑青空いつまでも
・雨戸開け狭き庭にも春の行く
コロナ禍の春の句
・新入生弾む家路も親マスク
・賑やかな人出まぼろし花の散る
雑詠
・菜園に雀の砂浴び覗き見る
コロナ禍の川柳;アベノマスク
・配る人配るマスクも汚れをり
コロナ禍の川柳;馴染めないコイケゴ
・呼び掛けも何処の人かと田舎人
(09) 宮澤さん
・永眠を恐れ春眠浅くなり
・桜散りつつじ枯れてもコロナ咲く
・鯉のぼりコロナの風で深呼吸
・華の街緑に翠美登利往き
・花一つマラソン人の靴の裏
(10) 森さん
・夕闇に君の襟元白梅香
・紅梅は泪をたたえ君誘う
・百年後も桜並木は君を待つ
・桜花死処を選びて落ちにけり
(11) 柳町さん
我が家前の登校路に子供の声が絶えてすでに2 ヶ月、寂
しいですね
・登校路消えて久しく子らの声
外出自粛でゴルフも行けず、イメージ・ゴルフで日々を
過ごしています
・芝の目の見かたも忘れティーショット
不要不急の外出自粛で孫も我が家に近寄らず、電話で元
気をもらう日々です
・孫の声電話の向こうに遠ざかり
(12) 豊さん
・見ぬままに今年の桜散りにけり
・安静のベッドより見る春の山
・コロナ禍やマスク美人の増える春
・喜びをリモートで知る入社式
・行く春を惜しむ多摩川暮色かな
・春がゆく過去をベンチに置き忘れ
(13) 深瀬
・身売りされ車窓の青田見つめる娘 (こ)
・ひとまばら棺 (ひつぎ) 見送る青田かな
・うすものに黒き瞳や艶 (えん) 湛え
・うすものを羽織りし母の細きかな
・体躯してうすものの僧経唱え
・走る人歩く人コロナ禍五月朝景色
・確かさの老いて狭まる春の靄 (もや)
・コロナ禍に若葉一枝妻飾り
・にぎわいの甍に若葉江戸の街
・老夫婦若葉並木を支え会ひ
・独り寝の耳にこだます猫の恋
・組織人やめて親しき猫の恋
・物干しの街灯の影猫の恋
・ぎゃあどさっ静寂 (しじま) ゆさぶる猫の恋
・孫はさみ妻と指差す春の雲
・母逝きし火葬の空に春の雲
・死に向かふ覚悟はいかに自問せり
・ふるさとを問われ地球と宇宙から
・古来からオスのロマンにメス打算
・足指に力を込めて春散歩
・巣籠もりに老前整理ハイピッチ
2.第32回 ネット句会 自句自解
◎ 小野寺さんの自句自解
・花冷えや墨の香りに筆を留め (5 点-48)
幼年時代祖父から受けた硯を擦り筆で手紙を書く習慣は長じて役に立ちまし
た。漢文の河村廣通先生とは海外駐在中も含めて巻紙に書いた筆の便りの交信
が先生が亡くなられるまで続きました。硯を擦ると心が落ち着き墨の香りが、
花冷えの室内に満ちて筆を留めました。多忙な生活の中で墨の香は心の静謐を
誘ってくれます。
・囀( さえず) りを窓開けて聴く花曇り (3点-40)
葉桜の外の景色は小鳥の囀りと相まって花曇りの春愁を心なしか癒してくれ
る様な気がします。
・花筏流れの底を魚の影 (2点-43)
満開の桜が散り花筏となって川面を流されてゆくふと覗いてみると川底の辺
りに稚魚の走る影があり散る生命と生きる生命の移り変わりを垣間みた思いで
した。
・春雷の轟く彼方光る海 (2点-58)
一瞬の春の嵐、稲妻の雷光の先に遠く水平に海が輝いていて、不思議な光の
ハーモニーでした。
・初恋の遠いいたみか花吹雪 (2点-68)
春も終わりを告げる散りしく花吹雪のなかふと過ぎていった叶わぬ初恋の片
想いを微かな痛みとともに思い出しておりました。
・断捨離に封切り手紙そっと捨て (2点-75)
コロナで自宅待機の断捨離中未開封の手紙をみつけ何故かそっと開封し、一
瞥してそっと捨てたのでした。
・桜 (はな) 散りて時の足音流れけり (2点-80)
宮澤さんご指摘のように爛漫の桜舞い散る中入学式や入社式等様々な行事が
果たせぬまま過ぎてしまった事を散るさくらに、音たてて時が流れてゆくと感
じたものです。
・藤棚の花ゆらめきて風光る (2点-84)
藤棚の藤の花房が風にゆれて逆光の木漏れ陽が空いて、あたかも風が光る錯
覚にとらわれたのでした。
・黒髪の匂いゆたかに藤の花 (2 点-96)
藤棚の藤の花のむせる様な甘い匂いは過ぎた日の長い髪を風になびかせた人
の昔を想いださせました。
・万緑を越えて峠は風の音 (2点-66)
万緑の碧滴る様な山路を越えて来てふと振り返ると、額の大粒の汗を吹き飛
ばすように風が轟々と鳴っておりました。
・雷光の雲低く垂れ燕来る (1点-100)
春雷の稲妻が光る低く垂れた黒い雲の中を初燕が飛んできた。一幅の絵を観
る様な光景でした。
・星々が息留めて聴く華の声 (1点-60)
夜桜の神秘的な美しさを夜も更けた深い静寂 (しじま) の中で天空の遥かな
星たちが、息を留めて華の精の声を聴いているのだと感じました。
・春風や睫毛に残る陽は眩し (1点-94)
宮澤さんの解釈の通りです。葉桜となり春も終わる頃泣き濡れた瞳と睫毛に
残る涙に陽があたり、それを眩しく見つめていた遠い日の思い出ながら、別れ
の日の情景が切なく蘇がえってきました。
・夕闇に花閉じ眠る白牡丹 (1点-103)
牡丹の花は夜が来ると花弁を閉じて眠ります。暗闇が迫る夕暮れ時、眠りに
ついた白牡丹はぼんやりと暗闇の中で白く光ります。牡丹の花が眠る現象は育
ててみて判ります。これも又確かな自然の運行です。
追記
俳句を創る事は絵画作品を創り出す作業に似ています。感動した風景や感じ
た情景を絵筆ではなく言葉で紡ぐ作業は、ある時堰を切ったように、浮かんで
くる風景や事象への再確認です。言葉を組み立てる作業ではなく感動や思いを
人に素直に伝える心ではないか。と最近思うようになりました。
◎ 吉良さんの自句自解
コロナ騒ぎの直前に子規が生まれた松山に旅行した折に詠んだ句です。松山
城の歴史を学んだり、地方の焼き物の町を訪れたりしたときの情景を読みまし
た。
◎ 桑子さんの自句自解
今回はやはりコロナ関連の句がほとんどでした。
・人混みを避けて遠目の桜かな
5 点ももらって恐縮です。花見の時期「人混みを避けて」とだいぶ言われて
おり、そのフレーズを頂いて作りました。実際遠くから眺めて花見のハシゴを
していました。
・今日も又濃厚接触妻ひとり
・脳トレと名画で刻む春の昼
コロナ禍の外出自粛要請の中での実体験です。
・さあ出番コロナ退治ぞ鍾馗様
端午の節句に飾る鍾馗様は疫病を追い出すと言われており、願望を込めて読
みました。
・レジ袋冠る烏帽子や春時雨
買物帰り、雨が降ってきたので雨よけに持っていたレジ袋を冠(かぶ)った
ら、まさに烏帽子のようでその光景を読みました。
◎ 中津川さんの自句自解
世の中と同様七句会俳句も新型コロナウィルス旋風に巻き込まれた様です。
・密避けて外で妻待つ春キャベツ (4点句)
治部さんご指摘のように春キャベツという季語を句の頭に持って来るか悩ん
だところです。今回はスーパーの外で私以外の男性が何人も待っていることを
出したくてあえて春キャベツを強調せず後ろに置きました。
コメント。5点句、4点句、3点句で私以外の6首はいづれも素晴らしく、
選句に迷った句ばかりでした。特に「うすものを羽織し母の細きかな」 はは
はへの思いが伝わりすばらしいと感じましたが、 "うすもの" は夏の季語(今
回は兼題が春)として、恐縮ですが選句外とさせていただきました。
◎ 豊さんの自句自解
・コロナ禍やマスク美人の増える春
俳句というよりも川柳に近い内容なので、どうかと思いましたが、5 点も入
るとは意外でした。わかりやすかったからでしょうか。
・見ぬままに今年の桜散りにけり
いつもなら花見に出かけるのに、今年は外出自粛で外に出られず、気がつけ
ばいつの間にか桜が散ってしまっていた、という心境です。
・安静のベッドより見る春の山
4月下旬から5月の連休明けまで、私は股関節の手術で入院していました。
そのとき病室の窓から見た風景です。
・春がゆく過去をベンチに置き忘れ
治部さんの指摘のとおり、「置き去りに」としたほうが、句に深みが出たよ
うです。
◎ 深瀬の自句自解
・身売りされ車窓の青田見つめる娘 (こ)
昭和恐慌のころの秋田で身売りされる少女の話しを母から聞かされました。
・ひとまばら棺 (ひつぎ) 見送る青田かな
父の遺したアルバムのなかに若くして亡くなった親戚の人の葬儀のセピア色
の写真があります。これは、幟を立てたり、かなりの賑わいのようでしたが。
・うすものに黒き瞳や艶 (えん) 湛え
うすものと聞くとなにかオリエント風の艶っぽいものを連想します。
・うすものを羽織りし母の細きかな
母は勤務医でしたが、それを辞め、70歳をすぎたあるころから急に痩せた感
じでした。もう少し世話をしてあげたらとやや後悔しています。
・体躯してうすものの僧経唱え
体躯は大柄な体つきのつもりですが、誤用のようです。
・走る人歩く人コロナ禍五月朝景色
これまでの朝には出逢わなかった人たちが、トレナーを着て、歩いたり走っ
たりしています。在宅勤務や自宅待機の広がりを感じます。
・確かさの老いて狭まる春の靄 (もや)
高齢になった認知症の専門医だった人のドキュメンタリーを見ました。確か
さが日々減っていくという言葉になにか同感するものがありました。
・コロナ禍に若葉一枝妻飾り
コロナ禍のなかでも、精神的ゆとりを感じたいと思いました。
・にぎわいの甍に若葉江戸の街
若葉は、江戸の黒瓦が並ぶ町並みに似合うように感じました。三越前駅地下
コンコース壁面に常設されている『熈代勝覧』の複製絵巻も念頭に置きました。
・老夫婦若葉並木を支え会ひ
いずれ互いに杖をついたりするのだろうか、想像です。
・独り寝の耳にこだます猫の恋
猫の恋を、少しスマートに詠みたいと思いました。
・組織人やめて親しき猫の恋
サラリーマンのころは、精神的に余裕がなかったなと感じます。
・物干しの街灯の影猫の恋
昭和の物干し台をイメージしました。
・ぎゃあどさっ静寂 (しじま) ゆさぶる猫の恋
一体となって塀の上から落ちる様は想像です。
・孫はさみ妻と指差す春の雲
たまに、息子の嫁さんと家内と二人の男の孫の五人で近くを散歩します。
・母逝きし火葬の空に春の雲
母は10年ほど前の新緑のうつくしい5 月に柿生の方の病院で亡くなりまし
た。火葬の煙を見たわけではありませんが。
・死に向かふ覚悟はいかに自問せり
古稀をすぎるとやはり死を身近に感じます。なにか準備することがあるの
か、むずかしい問いの感じです。
・ふるさとを問われ地球と宇宙から
宇宙飛行士のなんにんかにインタビューするTV番組がありました。そのなか
で、「わたしのふるさとは地球です」と答えていました。そうなると思います。
・古来からオスのロマンにメス打算
「メス打算」は表現がよくありませんが、持続可能性を踏まえた冷静さによ
って、過剰な欲望を抑制し、社会のバランスをとっているように思います。
・足指に力を込めて春散歩
最近、歩くとき、足指で大地を噛むように意識しています。ふらつきが減っ
た感じがします。UFC のマイク・タイソンの歩き方に似ているかも(?) 。
・巣籠もりに老前整理ハイピッチ
コロナ禍の巣籠もりもありますが、老前整理を日々意識する今日この頃です。
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